記事 | PAYSAGE-お気に入りの食器たち

2025/07/05 06:27


── 音楽と食器に共通する“想像力”という美しさ ──

近年、J-POPが世界中で注目を集めています。
その背景にはアニメやゲーム文化の浸透といった外的要因に加えて、J-POPならではの音楽的な個性が高く評価されていることが挙げられます。

中でも「マルサ進行」と呼ばれる特徴的なコード進行は、その象徴的な存在。
そして興味深いことに、このコード進行がもたらす“情景の広がり”や“物語性”は、私たちが日々使う「食器」にもどこか通じるものがあるのです。


「マルサ進行」とは?

「マルサ進行」は、椎名林檎の代表曲『丸の内サディスティック』で使われているコード進行に由来します。
具体的には、A7 → D7 → G7 → C7 → F7 → B♭7 → E7 → A7 という流れで、すべてドミナント・セブンスコードが連続し、4度ずつ下降していくという独特の構造です。

この進行は、ジャズのような香りを持ちつつもJ-POPとして昇華されており、都市の喧騒や夜の情景、人間関係の温度感など、さまざまな「物語」を想起させる響きがあります。


なぜ「マルサ進行」が注目されるのか?

J-POPのコード進行は、世界のポップスと比べてとても複雑です。
海外では I–V–vi–IV のような反復的な進行が多い中で、日本の楽曲には転調、長短混合、ドミナント7thの連続などが自然に組み込まれています。

こうした「予測不能でありながら心地よい構造」は、まるで一本の映画や小説を読んでいるかのような感覚を聴き手にもたらします。
マルサ進行はその代表例であり、海外のミュージシャンやYouTuberの間でも「Japanese chord progression(日本的コード進行)」として紹介されるほどです。


J-POPと食器に共通する“想像させる力”

J-POPの複雑なコード進行が聴く人に物語や風景を想像させるように、食器もまた、ただの道具以上のものとして、私たちの心に物語を描かせる存在です。

たとえば、手描きのポーリッシュポタリーに広がる小さな花模様は、ポーランドの田園を想起させます。
北欧食器のシンプルで静かな佇まいからは、白夜のダイニングテーブルやフィンランドの森を思い浮かべる人もいるかもしれません。

私たちが毎日使う器もまた、暮らしの中に**風景と物語を紡ぐ“道具”であり、“語り手”**なのです。


J-POPが世界で広がる理由と文化的独自性

J-POPがグローバルに注目される要因は、音楽的構造だけではありません。以下のような複数の要素が、複合的に評価されています:

  • アニメやゲーム文化との親和性
    世界中で親しまれる作品の主題歌として自然に耳に届く。

  • 音楽的複雑性と豊かさ
    転調、モーダルインターチェンジ、非機能的コード進行などの多用により、独自の世界観が生まれる。

  • 日本語の響きの美しさ
    子音+母音という発音体系がリズムとメロディに自然な揺らぎを与える。

  • シティポップや歌謡曲の再評価
    1980年代の日本的コード進行とサウンドが、現代の海外リスナーの感性にマッチしている。


終わりに:響きの奥に広がる物語

「マルサ進行」は、J-POPの音楽的魅力を代表する一例にすぎませんが、その響きは多くの人の心に残り、情景を想像させる力を持っています。
それはまるで、静かな午後にお気に入りの器でお茶を淹れたときに感じる、あのふとした旅の記憶や、遠くの風景のよう。

音楽も食器も、機能性の背後にある“物語”こそが、私たちの暮らしを豊かにしてくれるのかもしれません。


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