記事 | PAYSAGE-お気に入りの食器たち
2025/04/20 05:29

私たちの食卓にある郷土料理の中には、驚くほど深い歴史と風土に根ざした知恵が詰まっているものがあります。そのひとつが、山口県各地で今も食べ継がれている「茶がゆ」です。
茶がゆといえば、奈良地方をはじめ全国各地に伝わる素朴な料理ですが、山口県では特に柳井地区や周防大島地区、岩国地区、萩地区などにおいて独自の伝承文化があります。
茶がゆのはじまり──藩政時代の知恵から
山口県での茶がゆの普及は、江戸時代初期にさかのぼります。岩国藩主・吉川公が米の節約策として奨励したことが、その始まりとされています。米を贅沢に使うのではなく、お茶とともに炊き上げることで少量でも満足感のある食事に。こうした背景から、茶がゆは庶民の間に広まり、やがて日常食として定着しました。
この料理のもうひとつの魅力は、「消化がよく、体にやさしい」こと。お茶の成分と柔らかいおかゆの食感が相まって、夏バテの時期や体調を崩した時などにも重宝されています。
ほうじ茶の香ばしさと、さつまいものやさしい甘み
山口の茶がゆの特徴は、ほうじた番茶を用いること。香ばしく煮出したお茶に、洗わずに加えた米をそのまま炊き上げます。使用するのは、昔ながらの「鑵子(かんす)」と呼ばれる鉄釜。色がしっかりと出たところで茶袋を取り出し、じっくりと炊いていきます。
さらに、周防大島や柳井ではサツマイモを加えた「芋がゆ」が好まれており、ほんのりとした甘みが加わることで、まるでデザートのような一品に仕上がります。
家庭の味、それぞれの風流
茶がゆは一見するとシンプルな料理ですが、炊き方には各家庭ごとの「秘訣」があります。火加減ひとつで粘りや口当たりが大きく変わるため、母から子へと受け継がれてきた技がそこには光ります。
その繊細さゆえ、「ただの質素な食事ではなく、風流食である」とする見方もあり、食卓の上で文化としての価値が語られる料理でもあるのです。
現在の食卓にも──受け継がれる郷土の味
今日では、茶がゆは家庭で手軽に作られるほか、柳井市やその近郊の旅館や食事処でも味わうことができます。また、郷土食の伝承イベントなどでも調理実演が行われるなど、地域の食文化を次世代に伝える取り組みも盛んです。
冷やしてもおいしく、暑い季節の朝食や小腹がすいた時の軽食としてもぴったり。手間を惜しまない、けれどシンプルな料理として、今のライフスタイルにも無理なく取り入れられるのが茶がゆの魅力ではないでしょうか。
茶がゆと器の美しい関係
せっかくの郷土の味をいただくなら、その器選びにも少しこだわってみませんか?
たとえば、茶がゆのやさしい色合いやさらりとした質感は、ポーリッシュポタリーの深鉢や北欧のストーンウェアのボウルとの相性が抜群です。
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ポーリッシュポタリーのボウルなら、コロンとしたフォルムが茶がゆの温かみを引き立て、サツマイモの黄色と器の絵柄のコントラストも美しく映えます。
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北欧のホワイトやグレートーンの食器であれば、落ち着いた雰囲気の中にどこか凛とした印象が加わり、まさに「風流食」と呼ばれるにふさわしい佇まいに。
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朝の一膳には、持ち手付きのスープマグに盛って、スプーンでいただくスタイルもおすすめです。現代的で親しみやすく、食欲のない朝にもやさしく寄り添います。
器を選ぶことで、茶がゆは「ただの家庭料理」から、心を整える一汁の美学へと昇華するのです。
山口県風「茶がゆ」の基本レシピ(5人分)
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米:1カップ
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番茶:15g
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水:8カップ
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(必要に応じてサツマイモ、塩)
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番茶をガーゼなどに包み、鍋で水と共に煮出す。あめ色になったら茶袋を取り出す。
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洗わない米を加え、ふきこぼれない程度の火加減で約30~40分煮る。
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サツマイモを加える場合は1cm厚に切り、水にさらしてから加える。
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火を止めて数分蒸らし、好みで塩を加える。
昔ながらの知恵とやさしさが詰まった「茶がゆ」。器とともに味わうことで、日々の食卓に小さな豊かさが生まれます。ぜひ、皆さんのご家庭でも試してみてください。
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