記事 | PAYSAGE-お気に入りの食器たち

2025/02/02 06:06

北欧デザインの代表格として知られるイッタラ(Iittala)。シンプルで機能的なデザインは、多くの人々の暮らしに溶け込み、今も世界中で愛されています。しかし、創業当初のイッタラは、現在のようなミニマルなデザインではなく、より装飾的なスタイルの製品を生産していました。では、なぜイッタラはシンプルデザインへと方向転換したのでしょうか?その答えは、戦後のフィンランド社会とデザイン界の変化にあります。

戦後のフィンランドとデザインの変化

第二次世界大戦後、フィンランドをはじめとする北欧諸国では、戦争の影響により資源が不足し、合理的で機能的なデザインが求められるようになりました。特にフィンランドでは、「デザインは日常生活をより良くするためのもの」という理念が広まり、シンプルで実用的なデザインが重視されるようになります。これはイッタラに限らず、アラビア(Arabia)やマリメッコ(Marimekko)など、フィンランド全体のデザイン業界にも見られる特徴です。

フィンランドのデザインは、日常に寄り添う実用性を大切にしながら、過度な装飾を避け、自然の要素を取り入れた温かみのあるシンプルさが特徴となっています。

カイ・フランクとアルヴァ・アアルトの影響

この変化を推し進めたのが、フィンランドを代表するデザイナー、カイ・フランク(Kaj Franck)とアルヴァ・アアルト(Alvar Aalto)です。

カイ・フランク:合理的でミニマルな美

カイ・フランクは、「Less is More(より少なく、より豊かに)」という理念のもと、無駄を削ぎ落としたシンプルなデザインを追求しました。彼の代表作である**ティーマ(Teema)**シリーズは、余計な装飾を排し、どんな食卓にも馴染むデザインで、現在もイッタラのベストセラーのひとつです。

アルヴァ・アアルト:自然を取り入れたデザイン

フィンランドのモダンデザインを牽引した建築家・デザイナーのアルヴァ・アアルトも、イッタラのシンプルデザインの礎を築いた一人です。彼が1936年にデザインした**アアルト・ベース(Aalto Vase)**は、有機的なフォルムが特徴で、装飾的でありながらもシンプルな美しさを持ち合わせています。

「タイムレスデザイン」の確立

イッタラは、1950年代に「タイムレスデザイン(時を超えるデザイン)」というブランド哲学を掲げました。これは、流行に左右されない普遍的な美しさを持つ製品を生み出すことを意味し、戦後の合理性を重視したデザインと合致していました。

この哲学のもと、イッタラは日常使いに適した耐久性のある製品を生み出し続け、シンプルで美しいデザインがブランドのアイデンティティとして確立されました。

現代にも続くシンプルデザインの魅力

イッタラが戦後に築いたシンプルデザインの哲学は、今なお受け継がれています。無駄を省きつつも美しさを兼ね備えた製品は、現代のミニマリズムやサステナブルデザインの流れとも調和し、多くの人々に支持されています。

戦後の社会的背景とフィンランド全体のデザイン界の革新によって生まれたイッタラのシンプルデザイン。その歴史を知ることで、普段使っている食器やグラスに込められた哲学をより深く味わうことができるのではないでしょうか?

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